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東京地方裁判所 昭和52年(ワ)1168号 判決

第一一六八号事件原告、第二六〇〇号事件被告、第五三六三号事件原告、第一〇四七二号事件被告(以下原告という。) 有限会社トーワ

右代表者代表取締役 渡部昭典

右訴訟代理人弁護士 柴田政雄

同 鹿児嶋康雄

同 浅田千秋

第一一六八号事件被告・第二六〇〇号事件原告(以下被告という。) 東京テラゾー工業株式会社

右代表者代表取締役 青木優

第二六〇〇号事件原告(以下被告という。) 青木繁

〈ほか二名〉

右被告ら訴訟代理人弁護士 八木忠則

第五三六三号事件被告・第一〇四七二号事件原告(以下被告という。) 本城傳

右訴訟代理人弁護士 名城潔

主文

(第一一六八号事件につき)

原告有限会社トーワの請求を棄却する。

(第二六〇〇号事件につき)

一  被告有限会社トーワは、

1  原告東京テラゾー工業株式会社に対し、原告東京テラゾー工業株式会社の被告有限会社トーワに対する、別紙貸付金目録記載の金銭消費貸借契約に基づく各貸金債務のうち、同目録六記載の金二五万円を除く各貸金債務が存在しないことを、

2  原告青木繁及び原告青木正四に対し、原告青木繁及び原告青木正四の被告有限会社トーワに対する、昭和五一年一一月九日の連帯保証契約について、被保証債務元金二五万円を超える連帯保証債務が存在しないことを、

3  原告百々弘に対し、原告百々弘の被告有限会社トーワに対する、昭和五一年一〇月二六日の連帯保証契約について、被保証債務元金二五万円を超える連帯保証債務が存在しないことを、

それぞれ確認する。

二  被告有限会社トーワから原告東京テラゾー工業株式会社及び原告百々弘に対する東京法務局所属公証人清沢寛一作成昭和五一年第三七三二号債務弁済契約公正証書に基づく貸金債権中元金二五万円を超える債権についての強制執行はいずれも許さない。

三  被告有限会社トーワから原告青木繁及び原告青木正四に対する東京法務局所属公証人清沢寛一作成昭和五一年第三八七二号保証契約公正証書に基づく連帯保証債権中元金二五万円を超える債権について強制執行はいずれも許さない。

四  原告東京テラゾー工業株式会社、原告青木潔、原告青木正四及び原告百々弘のその余の請求はいずれも棄却する。

(第五三六三号事件につき)

原告有限会社トーワの請求を棄却する。

(第一〇四七二号事件につき)

被告有限会社トーワは原告本城傳に対し、原告本城傳が、訴外大日本土木株式会社の昭和五二年一月一一日に東京法務局へなした供託金七五万五〇〇〇円の還付請求権を有することを確認する。

(訴訟費用の負担につき)

訴訟費用はこれを一〇分し、その四を原告有限会社トーワの負担とし、その一を被告百々弘の負担とし、その余を被告東京テラゾー工業株式会社、被告青木繁及び被告青木正四の連帯負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(原告)

一  第一一六八号事件につき

1 被告東京テラゾーは原告に対し、原告が大日本土木に対して金七三万八八六〇円の債権を有することを確認する。

2 訴訟費用は被告東京テラゾーの負担とする。

二  第二六〇〇号事件につき

1 被告東京テラゾー、被告繁、被告正四及び被告百々の請求はいずれも棄却する。

2 訴訟費用は被告東京テラゾー、被告繁、被告正四及び被告百々の負担とする。

三  第五三六三号事件につき

1 被告本城は原告に対し、原告が大日本土木に対して金七三万八八六〇円の債権を有することを確認する。

2 訴訟費用は原告本城の負担とする。

四  第一〇四七二号事件につき

1 被告本城の請求を棄却する。

2 訴訟費用は被告本城の負担とする。

(被告東京テラゾー)

一  第一一六八号事件につき

1 主文と同旨

2 訴訟費用は原告の負担とする。

二  第二六〇〇号事件につき

1 原告は被告東京テラゾーに対し、被告東京テラゾーの原告に対する別紙貸付金目録記載の金銭消費貸借に基づく貸金債務が存在しないことを確認する。

2 原告から被告に対する東京法務局所属公証人清沢寛一作成昭和五一年第三七三二号債務弁済契約公正証書に基づく強制執行は許さない。

3 原告は被告東京テラゾーに対し金一七二万三四六三円及びこれに対する昭和五二年四月二四日から右支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

4 訴訟費用は原告の負担とする。

5 3及び4につき仮執行の宣言

(被告繁、被告正四及び被告百々)

第二六〇〇号事件につき

1 原告は、被告繁及び被告正四に対し、被告繁及び被告正四の原告に対する昭和五一年一一月九日の、被告百々の原告に対する同年一〇月二六日の各連帯保証契約に基づく保証債務が存在しないことをそれぞれ確認する。

2 原告から、被告百々に対する東京法務局所属公証人清沢寛一作成昭和五一年第三七三二号債務弁済公正証書に基づく、被告繁及び被告正四に対する同作成昭和五一年第三八七二号保証契約公正証書に基づく各強制執行はいずれも許さない。

3 原告は、被告繁に対し、別紙物件目録記載の建物につき、東京法務局板橋出張所昭和五一年一〇月二六日受付第四九二五四根抵当権設定仮登記及び同法務局同出張所同年一一月一日受付第五〇五二二号根抵当権設定登記の、被告正四に対し、同目録記載の土地につき、同法務局同出張所同年一〇月二六日受付第四九二五三号根抵当権設定仮登記及び同法務局同出張所同年一一月一日受付第五〇五二二号根抵当権設定登記の各抹消登記手続をせよ。

4 訴訟費用は原告の負担とする。

(被告本城)

一  第五三六三号事件につき

1 主文と同旨

2 訴訟費用は原告の負担とする。

二  第一〇四七二号事件につき

1 主文と同旨

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

(第一一六八号、第五三六三号各事件につき)

一  原告の請求原因

1  被告東京テラゾーは訴外大日本土木株式会社に対して、支払期日を昭和五一年一二月一〇日とする請負工事代金債権金七五万五〇〇〇円を有していた。

2  原告は被告東京テラゾーに対し、

(一) 昭和五一年三月二四日、金三〇〇万円を、利息月四分、弁済期一ヶ月後として、金一二万円を天引きして貸し与え、更に、同年四月一日、金六〇〇万円を、利息及び弁済期を同じ約定で、金二四万円を天引きして貸し与えたが、同年八月二一日、右各貸金及び利息を加算した金一〇四九万円を目的として、利息月四分、弁済期同年一〇月二五日、遅延損害金年三割との約定の準消費貸借の合意をなした。

(二) 同年八月二一日、金二七〇万円を、利息月七分、弁済期同年一〇月二五日、遅延損害金年三割の約定で、金二〇万円を天引きして貸し与えた。

(三) 同年八月二七日、金二五万円を、利息、弁済期及び遅延損害金を右(二)と同じ約定で貸し与えた。

(四) 同年九月一四日、金三〇万円を、利息、弁済期及び遅延損害金を右(二)と同じ約定で貸し与えた。

(五) 同月二〇日、金一八八万円を、利息、弁済期及び遅延損害金を右(二)と同じ約定で、金一八万円を天引きして貸し与えた。

(六) 同年一〇月六日、金二五万円を、利息、弁済期及び遅延損害金を右(二)と同じ約定で貸し与えた。

(七) 同月八日、金二〇万円を、利息、弁済期及び遅延損害金を右(二)と同じ約定で貸し与えた。

(八) 同月三〇日、金一九五万円を弁済期同年一一月九日として貸し与えた。

3  被告東京テラゾーは、昭和五一年一〇月三〇日、原告に対し、前項の借受金の担保として、被告東京テラゾーが大日本土木に対して有する第1項の債権の内金七三万八八六〇円の債権を譲渡し、同日、大日本土木に対し、確定日附ある債権譲渡の通知をなした。

4  しかるに被告テラゾー及び被告本城は、右債権は被告本城が有していると主張し、原告が大日本土木に対する右譲受債権を有していることを争っている。

5  よって、原告は被告東京テラゾー及び被告本城に対し、原告が大日本土木に対し金七三万八八六〇円の債権を有することの確認を求める。

二  請求原因に対する被告東京テラゾーの認否

請求原因第1項、第2項の(六)の貸金の事実及び第4項は認めるが、その余は否認する。

三  請求原因に対する被告本城の認否

請求原因第1、第4項は認め、第2、第3項は否認する。

四  被告東京テラゾーの主張

1  原告の代表者である訴外渡部昭典は、昭和五〇年一一月ころ、有限会社西福商事の名称で、金融業を営んでいたところ、昭和五一年四月一三日、原告を設立し、町金融を営むようになったが、実体は従来と同じ規模の経営であった。

2  被告東京テラゾーは、別紙債権計算表記載のとおり、昭和五〇年一一月から昭和五一年九月までの間、渡部更には原告設立後は原告から、金融を受けていたが、原告と被告東京テラゾーとの間で、原告が渡部の被告東京テラゾーに対する債権、債務を一切承継する黙示の合意が成立した。被告東京テラゾーは渡部更には原告に対し、別紙債権計算表記載のとおり、元利金を支払い、右支払についての利息制限法超過の利息の元本充当により、合計金一七二万三四六三円の過払となっている。なお、被告東京テラゾーは原告から、右計算表以外に、昭和五一年一〇月六日に金二五万円を借受けたが、同日、弁済した。

3  原告の主張する請求原因第2項(六)を除いた貸金については、原告が被告東京テラゾーを騙して預った印鑑を利用して作成した書類に基づく虚偽の主張である。

4  仮りに、原告主張のとおり、債権譲渡があったとしても、右債権譲渡は被告東京テラゾーの原告に対する債権が存在し、その弁済のために譲渡する趣旨であるところ、原告の債権は全く存在しないにもかかわらず、被告東京テラゾーは右債務が存在すると誤信したもので、要素の錯誤があり無効である。

5  また原告は、昭和五一年八月一七日、被告東京テラゾーが原告の指示で被告本城から金銭を借用し、原告に借入金の返済をするに際し、被告本城に対し、不渡など不都合が生じたときは、売掛金一切の債権譲渡を予めなすことを原告において了解、熟知していたうえ、被告本城を信用させるための虚偽資料を自ら作成して、被告東京テラゾーに使用せしめたもので、原告は被告本城に対して、債権譲渡の有効性を主張することは禁反言の原則に反し、権利の濫用として許されない。

五  被告本城の主張

1  原告は被告東京テラゾーから予め受領していた、被告東京テラゾーの印鑑が押捺された白紙の用紙に無断で記入して、債権譲渡契約書、同通知書を作成したもので、無効である。

2  仮りに、原告主張のとおり、債権譲渡があったとしても、被告東京テラゾーの主張のとおり、被告東京テラゾーの原告に対する債務が存在していない以上、右債権譲渡が貸金の担保のためである以上、担保権の附従性から、担保権も消滅することとなり、債権譲渡は無効である。

3  また、被告東京テラゾーが主張するように、右債権譲渡は要素の錯誤があり、無効であり、かつ、禁反言の原則に反し、権利の濫用として許されない。

六  被告東京テラゾー及び被告本城の各主張に対する原告の答弁

1  被告東京テラゾーの主張第1項のうち、渡部が西福商事の名称で金融を営んでいたこと、原告と西福商事とが実体が同一であることは否認する。原告と西福商事とは全くの別法人であり、本店も役員も異り、渡部は西福商事の役員ではない。

2  同第2ないし第5項は否認し、争う。

3  被告本城の主張第1ないし第3項は否認し、争う。

(第二六〇〇号事件につき)

一  被告東京テラゾー、被告繁、被告正四及び被告百々の各請求原因

1  被告東京テラゾーは石材の研麿を業とする会社であり、原告は金融業を営む会社である。被告繁及び被告正四は被告東京テラゾーの代表取締役である訴外青木優の両親で、被告正四は、昭和二三年一一月一〇日、別紙物件目録記載の土地(以下本件土地という。)を買受け、所有し、被告繁は、昭和三八年暮、本件土地上に別紙物件目録記載の建物(以下本件建物という。)を建築し、所有するに至った。

2  原告は

(一) 被告東京テラゾーに対し、別紙貸付金目録記載のとおり、第一一六八号事件請求原因第2項(一)ないし(七)の貸金額のとおり、昭和五一年八月二一日から同年一〇月八日までの間、合計金一六〇七円を次の約定で貸付けた債権があると主張する。

(1) 元金は昭和五一年一〇月二五日限り一括弁済

(2) 利息は年一割五分とし、元金と同時に支払う。

(3) 遅延損害金は年三割とする。

(二) 被告百々に対し、昭和五一年一〇月二七日に被告東京テラゾーの原告に対する右(一)記載の債務を連帯して保証した旨を、被告繁及び被告正四に対し、同年一一月九日に右同債務を連帯して保証した旨をそれぞれ主張する。

3(一)  また原告より被告東京テラゾー及び被告百々に対する債務名義として東京法務局所属公証人清沢寛一作成昭和五一年第三七三二号債務弁済契約公正証書が存在し、右公正証書には、被告東京テラゾーは原告に対し、前項(一)記載のとおり、金一六〇七万円を弁済すること、被告百々は原告に対し、前項(二)記載のとおり、金一六〇七万円の弁済を連帯して履行すること及び被告東京テラゾー及び被告百々は弁済しないときは直ちに強制執行を受けても異議のないことを認諾したことの記載がある。

(二) 更に原告より被告繁及び被告正四に対する債務名義として東京法務局所属公証人清沢寛一作成昭和五一年第三八七二号保証契約公正証書が存在し、右公正証書には、被告繁及び被告正四は原告に対し、前項(三)記載のとおり、金一六〇七万円の弁済を被告東京テラゾーンと連帯して履行すること及び弁済しないときは直ちに強制執行を受けても異議のないことを認諾したことの記載がある。

4  しかしながら、

(一) 原告が主張する被告東京テラゾーに対する貸金のうち、昭和五一年一〇月六日の金二五万円の貸金を除くその余の貸金はその事実はなく、右金二五万円の貸金も、同日、返済した。

(二) 被告百々、被告繁、被告正四は、原告との間で連帯保証契約をしたことはなく、かつ各公正証書に記載された執行認諾の意思表示をしたことがない。すなわち、各公正証書の作成嘱託をいかなる者に対しても代理委任したことはなく、被告らが各本人が作成に関与したことはない。

5  むしろ、被告東京テラゾーの第一一六八号事件の主張第1、第2項のように、被告東京テラゾーは原告に対して金一七二万三四六三円の不当利得返還請求権を有する。

6  原告は、本件建物につき、東京法務局板橋出張所昭和五一年一〇月二六日受付第四九二五四号根抵当権設定仮登記及び同法務局同出張所同年一一月一日受付第五〇五二二号根抵当権設定登記を、本件土地につき、同法務局同出張所同年一〇月二六日受付第四九二五三号根抵当権設定仮登記及び同法務局同出張所同年一一月一日受付第五〇五二二号根抵当権設定登記をそれぞれ有している。

7  よって被告東京テラゾーは原告に対し、原告の主張する貸金債務の不存在の確認、公正証書の執行力の排除、不当利得金一七二万三四六三円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和五二年四月二四日から右支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、本件百々は原告に対し、原告の主張する連帯保証債務の不存在の確認、公正証書の執行力の排除を、被告繁及び被告正四は原告に対し、原告の主張する連帯保証債務の不存在の確認、公正証書の執行力の排除、本件建物、土地の原告の根抵当権設定仮登記及び根抵当権設定登記の各抹消登記手続をなすことをそれぞれ求める。

二  請求原因に対する原告の認否

1  請求原因第1ないし第3項はいずれも認める。但し原告の主張する各貸金の利息は第一一六八号事件の請求原因第2項記載のとおりである。

2  同第4項は否認し、争う。

3  同第5項は第一一六八号事件の被告東京テラゾーに対する原告の答弁第1、第2項のとおり、争う。

4  同第6項は認める。

三  原告の主張

1  被告繁は、その後、本件建物を売却し、所有権を喪失した。

2  被告百々、被告繁及び被告正四は、昭和五一年三月二〇日ころ、原告との間で、被告東京テラゾーが原告に対し、将来、負担する債務について連帯保証し、これについて強制執行認諾付公正証書を作成する旨の合意が成立した。

3  被告繁及び被告正四は、前項の合意をなしたころ、原告との間で、原告の被告東京テラゾーに対する貸付金を担保するため、本件土地、建物につき根抵当権設定契約及び被告東京テラゾーが借入金の返済を困難となる事情が発生した場合に直ちに設定登記手続をなす旨の合意が成立した。

4  被告繁及び被告正四は青木優を使者又は代理人として、前記の各合意をなしたものである。

5  被告繁及び被告正四は青木優に対し、右各合意を含む、被告東京テラゾーの資金繰りのための包括的な代理権を授与していた。

6  仮りに、青木優に代理権がないとしても、青木優は被告繁及び被告正四の実印を携帯し、かつ印鑑証明書を原告に交付したので、両者の関係が親子であることから、原告が青木優が正当な代理権を持っていたと信じたとしてもやむを得ないもので、民法一〇九条の表見代理が成立する。

7  したがって、公正証書の作成及び根抵当権設定(仮)登記が前記各合意に基づくものである以上、有効である。

四  原告の主張に対する被告東京テラゾー、被告百々、被告繁、被告正四の認否

1  いずれも否認し、争う。

2  青木優は被告繁及び被告正四と同居し、信用されていることをよいことに、勝手に印鑑を利用したにすぎず、無効な行為である。また、被告百々についても、自己の借入のため原告に預けていた印鑑証明、委任状を原告が濫用して連帯保証を顕現したもので、無効である。

(第一〇四七二号事件につき)

一  被告本城の請求原因

1  被告東京テラゾーは大日本土木に対し、支払期日を昭和五一年一二月一〇日とする請負工事代金債権金七五万五〇〇〇円を有していた。

2  被告本城は、昭和五一年一一月二日、被告東京テラゾーから、大日本土木に対する債権金額の譲渡を受け、被告東京テラゾーは、同日到達の内容証明郵便をもって、大日本土木に対し、右債権譲渡を通知した。

3  しかるに、原告は被告東京テラゾーから右債権の内金七三万八八六〇円の譲渡を受けたと主張している。

4  大日本土木は、昭和五二年一月一一日、債権者不確知を理由に、昭和五一年度金第一三〇〇二一号をもって東京法務局に金七五万五〇〇〇円を供託した。

5  よって被告本城は原告に対し、大日本土木が供託した金七五万五〇〇〇円を還付請求権が原告にあることの確認を求める。

二  請求原因に対する原告の認否

請求原因第1項は認め、第2項は知らない、第3、第4項は認める。

三  原告の抗弁

原告は、第一一六八号事件の請求原因のとおり、債権譲渡を受けたもので、被告本城に対抗できる。

四 抗弁に対する被告本城の認否、被告本城の主張及び右主張に対する原告の答弁

第一一六八号事件の請求原因に対する被告本城の認否、被告本城の主張、右主張に対する原告の答弁のとおりである。

第三証拠《省略》

理由

(第一一六八号事件について)

一  原告の請求原因第1項、第2項の(六)の貸金の事実及び第4項はいずれも当事者間に争いがない。

二  原告は、同第2、第3項において、原告は被告東京テラゾーに合計金一六〇七万円の貸金があり、右弁済の担保のため、被告東京テラゾーから、被告東京テラゾーの大日本土木に対する請負代金債権金七三万八八六〇円を譲り受け、被告東京テラゾーは確定日付ある債権譲渡の通知をなした旨主張し、被告東京テラゾーは、原告主張の貸金二五万円以外の各主張を否認し、むしろ被告東京テラゾーは原告からの借受金について、利息制限法を超過する元利金の支払をなしたもので、合計金一七二万三四六三円が過払をなし、被告東京テラゾーが認める金二五万円の借受金も、即日、弁済した旨主張するので、判断するに、

1  前項の争いのない事実に《証拠省略》によれば、次の事実を認めることができる。

(一) 被告繁は、戦前、安藤大理石商店に勤務し、石材の研磨の仕事をしていたが、昭和二八年ころから、独立して個人で石材研磨業を営むようになったものの、昭和三八年ころ、倒産し、その後、昭和三七年ころ、高血圧で倒れたこともあって、会社を設立することを考え、昭和四〇年一〇月九日、被告東京テラゾーを設立し、実質的には会社の代表者として仕事をしていたが、健康状態に問題があったため、以前から研磨の仕事を手伝っていた、被告繁の息子で優の弟であった訴外青木薫が代表取締役に就任し、従業員を約一〇名使用して、石材研磨業を営んでいた。優は、昭和三七年三月、日本大学工学部を卒業し、被告繁の研磨業を手伝うようになり、被告繁が被告東京テラゾーを設立後も仕事を手伝っていたが、昭和四四年、被告繁が、再度、高血圧で倒れ、入院したため、それ以後、被告繁は、時々、会社にきて、研磨の仕事を手伝う程度しか仕事に関与しなくなり、薫も別の仕事をしていたこともあって、被告東京テラゾーの実質的な経営者は優がなり、研磨業を営んでいたが、昭和四九年一一月二七日、優が代表取締役となり、名実とも被告東京テラゾーの代表者となり、その間、昭和四六年、被告東京テラゾーは不渡手形を出して倒産したこともあったが、その後も、営業を続けていた。

(二) 原告の代表者である渡部は、昭和五一年四月一三日、原告を設立し、金融業を営むようになったが、それ以前においても、有限会社西福商事の名称で、個人で金融業を営んでおり、事務所は個人のときも会社設立後も東京都豊島区《番地省略》であった。

(三) 優は、昭和五〇年一一月ころ、被告東京テラゾーの資金繰りに困っていたので、従兄弟の被告百々に相談したところ、訴外株式会社日証の社員である訴外伊東を通じて、渡部を知り、同月二七日、渡部から、金三三五万円を、利息として金三五万円を天引し、弁済期同年一二月二〇日として借り受け、その後も、被告東京テラゾーは資金繰りのため、渡部から、原告設立後は原告から、利息月六分前後で借金していたもので、昭和五一年一〇月六日には、原告から、金二五万円を、利息月七分で借り受けた。その間、被告東京テラゾーは、時時、渡部及び原告に対し、借入金の元本や利息制限法を超過する約定利息の一部を返済していたが、昭和五一年八月二一日、渡部の請求により、それまでの借入金を一本の契約書にすることとし、合計残元本が約金一三〇〇万円であると考えていたので、原告に対し、金額金一三一九万円、弁済期限同年一〇月二五日、利息年一割五分、損害金年三割とする抵当権設定金銭消費貸借契約証書を作成した。

(四) その後、被告東京テラゾーは、資金繰のため、原告以外にも高利の金融業者からも借金を続け、ますます経営状態が悪化し、遂に、昭和五一年一〇月二七日に第一回目の、同年一一月一日に第二回目の不渡手形を出して倒産したが、優は、第一回目の不渡手形を出す直前の同年一〇月二一日ころ、原告の事務所に赴き、渡部に相談したところ、渡部が会社の財産などを他の債権者から譲ってやるというので、渡部の指示により、被告東京テラゾーの代表者印の印鑑証明書の交付を受けて、渡部に渡し、公正証書作成の委任状に被告東京テラゾーの代表者印を押して、渡部に渡し、渡部はこれを利用して、同月二七日、被告東京テラゾーは原告に対し、同年八月二一日から同年一〇月八日まで借受けた合計金一六〇七万円を同月二五日限り一括して返済し、利息は年一割五分、損害金は年三割とし、不履行のときは強制執行を受けても異議ないことを認諾する旨の債務弁済契約公正証書を作成した。更に、渡部は、同月二八日、優を原告の事務所に呼び出し、会社の財産を譲ると称して、被告東京テラゾーの代表者印と請求書綴を持ってこさせて、右綴の中から代金未収のものを選びださせ、同月三〇日、未収代金である大日本土木に対する金七三万八八六〇円、訴外株式会社岩本組に対する金三九八万円など合計金五七〇万二八六〇円の代金債権を被告東京テラゾーが原告に貸金債務の担保として譲渡する旨の債権譲渡契約書を作成し、同日、確定日附ある債権譲渡の通知書を大日本土木などの債務者に送った。

2  ところで、渡部供述中には、右認定に反し、原告の主張に符合する供述部分があり、《証拠省略》が存在するが、

(一) 渡部供述では、原告主張の貸金の際に、現金を貸付けたときは同時に、振込送金のときはその直後に小切手を被告東京テラゾーから受取った旨の供述部分があるが、《証拠省略》に照らして信用することができない。すなわち、原告は、昭和五一年八月二一日、被告東京テラゾーから、以前に貸付けた金六〇〇万円と金三〇〇万円の貸金に利息を加算した金一〇四九万円の小切手を受取ったとの点については、訴外株式会社大和銀行三河島支店の被告東京テラゾーの当座勘定照合表によれば、右小切手は同年二月二七日から同年三月一〇日までに振出されたことは明らかであり、右の点に関する渡部供述部分は信用できない。またその余の小切手についても、それらに対応する各小切手の控の日付、金額及び渡先の記載は、優供述によれば、優がなしたもので、右記載自体からは右渡部供述部分を信用できないと判断できないが、通常、一通の小切手帳から小切手を振出す場合は、順次振出し、小切手番号が振出日の順に従っているものであるところ、渡部供述部分によれば、小切手番号の順序が振出日のそれとは関係なく前後しているのに反して、優供述では小切手番号の順序が振出日のそれと対応しており、更に優は原告に小切手を渡すときは金額は鉛筆で書くにすぎず、原告は被告東京テラゾーが貸金を弁済しても小切手を返還しなかった旨の優供述に照らすと、右渡部供述部分は信用することができない。

(二) また渡部供述では、原告主張の貸金の際、現金を貸付けたときは、被告東京テラゾーから前記小切手と共に領収証を受取った旨の供述部分があるが、前記(一)判断のとおり、前記小切手が原告主張を認めるに足る証拠とはなりえない以上、小切手と同時に受領したと主張する右領収証も、その作成日に作成されたと認めることができず、右領収証はいつ作成されたか判断できないところ、渡部が優から、倒産の際に被告東京テラゾーの記名印、代表者印を預ったことがあり(この点は渡部供述でも認めている。)、渡部がこれらを利用して右領収証を作成したとも考えられ、右渡部供述部分は原告主張を認めるに足りる証拠とはなりえない。更に、振込金受取書(甲第一〇号証)及び当座預金受入票についても、右各証拠からは、原告が被告東京テラゾーに貸金のため振込送金したことを認めることができず(甲第一〇号証は振込依頼人が優となっている)、被告東京テラゾーの倒産後、原告の社員が被告東京テラゾーの事務所を占拠し、書類を持ち去った旨の優供述からしても、右各証拠は原告主張を認めるに足りる証拠とはならない。

(三) 特に、渡部供述では、原告は、昭和五一年一〇月三〇日、被告東京テラゾーに金一九五万円を貸し与えた旨の供述部分があるが、金融業者である原告が不渡手形をだした被告東京テラゾーに貸金をするとは考えられず、右供述部分は信用することができない。

(四) 甲第二、第三六号証については、前記1認定のとおり、甲第二号証は、原告が、被告東京テラゾーが倒産した際、優が渡部の会社財産を譲ってやる旨の言葉を信じて作成した委任状を利用して、作成した公正証書であり、甲第三六号証は、昭和五一年八月二一日当時の被告東京テラゾーの原告に対する借受金残元本が約一三〇〇万円になると考えていたので、原告の請求により、被告東京テラゾーが借受金額を金一三一九万円として作成した契約書であり、いずれも原告主張を認めるに足りる証拠ではない。

(五) なお、渡部供述では、原告設立以前の被告東京テラゾーに対する貸金の貸主は西福商事であり、原告設立後に、原告は西福商事の地位を承継しない旨の供述がある。《証拠省略》によれば、西福商事は、昭和四八年七月一〇日、設立され、渡部は取締役に就任していないことが認められるが、西福商事の本店は東京都練馬区豊玉北であり、成立に争いのない乙第四号証によれば、渡部は、西福商事の取締役ではないにもかかわらず、被告東京テラゾーに対する貸金の担保受領の念書に、渡部の事務所の所在地を住所に、氏名に「西福商事取締役渡部昭典」をそれぞれ記載し、渡部の個人印を押印していること(渡部供述では、たまたま西福商事に行った際、乙第四号証を作成した旨の供述部分があるが、重要な要素である貸主として署名、押印していることからして、右供述部分は信用できない。)、百々供述によれば、日証の社員伊東に紹介されたのは渡部であることからすると、右供述部分は信用できず、貸主は渡部であると認めることができ、更に原告の設立の際、渡部と被告東京テラゾーとの貸借を清算せず、継続して貸借をなしていたことからすると、原告は渡部の債権、債務を承継したと認めるのが相当である。

以上からして、原告主張の貸金のうち、昭和五一年一〇月六日の貸金二五万円を除く貸金は認めることができない。

3  また、優及び百々の各供述中には、前記1認定に反し、被告東京テラゾーの主張に符合する各供述部分があり、《証拠省略》が存在するが、

(一) 被告東京テラゾーが原告に対して過払金がある旨の主張の証拠としては、優供述及びこれによって真正に成立したと認められる乙第一号証の一ないし二六が存在するが、優供述は被告東京テラゾーの渡部及び原告に対する借金並びにその返済の状況については詳細な供述がなく、優供述だけでは被告東京テラゾーの主張を認めることができず、乙第一号証の一ないし二六についても、これを子細に検討するに、優供述によれば、優は被告東京テラゾーの現金出納帳(乙第一号証の一ないし二六)を、税務署に提出するため、被告東京テラゾーの現金出納簿や出金伝票などを基礎にして、三ヶ月ないし四ヶ月をまとめて作成した帳簿である旨供述しているが、原告設立の四ヶ月以上の前の記載に原告の記載があること、優供述によって、被告東京テラゾーが借金したと認められる金融業者の記載がないこと、給与を受けていない繁の給料が記載されていることなどから、必ずしも正確であるとはいい難く、被告東京テラゾーの主張を認めるに足りる証拠とはいえない。

(二) 優供述には、被告東京テラゾーの原告に対する債権譲渡契約書(甲第三号証)は、白紙に、渡部の指示によって優が署名、押印したものであり、大日本土木に対する債権譲渡通知書(甲第四号証)の被告東京テラゾーの押印は優がなしたものではない旨の供述部分があるが、

(1) 甲第三号証には、被告東京テラゾーの大日本土木などに対する未収代金が記載されているが、被告東京テラゾーの請求書から集金済のものと未払のものの選別は、原告にはできず、優が右選別をして原告に教えたと考えられること

(2) 甲第四号証には、原告が知りえない、被告東京テラゾーが大日本土木にのみ使用している代表者印が押印されているのに対して、《証拠省略》によれば、訴外遠藤石材店に対する債権譲渡通知書には右代表者印は押印されていないこと、

(3) 優供述によれば、原告に対する債権譲渡がなされたことを前提とする岩本組に対する通知書及び被告本城に対する警告書(甲第六号証)と題する内容証明郵便を優自身が作成し、昭和五一年一一月六日、郵便局に差し出したこと(優供述では、甲第六号証は被告本城が旧姓安藤から改性されたことを知らなかったので作成した旨の供述部分があるが、優が成立を認める丙第六号証(被告東京テラゾーらと被告本城との公正証書)がそれ以前に作成されていることからして、右供述部分は信用できない。)

以上からして、原告に対する債権譲渡を否認する右供述部分は信用できない。

(三) 優供述では、被告東京テラゾーが、昭和五一年一〇月六日、原告から借受けた金二五万円は、即日、返済した旨の供述部分があるが、これを補強する書面がないうえ、これと相反する渡部供述があり、当時、被告東京テラゾーが倒産する一ヶ月前であることからして、右供述部分だけでは弁済の事実を認めることができない。

(四) 優及び百々、被告本城各本人の各供述には、被告東京テラゾーは、昭和五一年八月二一日、被告本城から金一二〇〇万円を利息を金一七四万円天引のうえ、借受け、同日、原告に対し、それまでの借金の返済として、金一〇二六万円を支払った旨の各供述部分があるが、返済の事実を否定する渡部供述があり、被告東京テラゾーが原告に対し、同月二一日に作成した金一三一九万円の貸金があることを認める甲第三六号証が存在することからしても、被告東京テラゾーが原告に金一〇二六万円返済した旨の右各供述部分は信用できない。

4  他に前記1認定の事実を覆えすに足る証拠がない以上、被告東京テラゾーは原告に対し、大日本土木に対する債権金七三万八八六〇円を譲渡したことを認めることができる。

三  次に、被告東京テラゾーは右債権譲渡は要素の錯誤があり、無効であると主張しているので判断するに、前項の判断によれば、被告東京テラゾーは原告に対し、合計金一六〇七万円の債務があるとの原告の主張を信じて、右債務の弁済の担保として、大日本土木に対する債権を譲渡したものであるところ、原告の被告東京テラゾーに対する貸金は金二五万円以外の債権は認められず、右債権は譲渡債権よりも半額以下の少額であり、被告東京テラゾーが、債務額を誤認せず、金額を認識していれば、債権譲渡をしなかったと考えられ、右債権譲渡について錯誤があり、右錯誤は要素の錯誤であると判断することが相当であり、被告東京テラゾーの右主張は理由がある。

(第二六〇〇号事件について)

一  請求原因第1ないし第3項及び第6項はいずれも当事者間に争いがない。

二  被告らは原告主張の貸金の存在、公正証書を争い、本件土地、建物についての原告の根抵当権設定仮登記及び同登記の無効並びに不当利得返還請求権があると主張し、原告は被告らの主張を争い、右公正証書、本件土地、建物についての根抵当権設定仮登記及び同登記が有効であると主張するので判断する。

1  前記各争いのない事実に《証拠省略》によれば、第一一六八号事件について第二項1で認定した事実に加えて次の事実を認めることができる。

(一) 被告繁の妻である被告正四は、昭和二三年一一月一〇日、本件土地を買受け、所有権移転登記手続をなし、また被告繁は、昭和三八年、本件土地上に本件建物を建築し、昭和五〇年五月三一日、所有権保存登記手続をなし、被告繁夫婦及び優は、以後、一緒に本件建物に居住するようになったが、昭和四〇年ころから、被告繁更には優は、被告東京テラゾーの資金繰りのため、本件土地、建物を担保のために提供するようになり、ただ被告正四は家庭の主婦として被告東京テラゾーの業務に全く関与せず、本件土地の担保提供などについては、被告繁や優に委せており、被告正四の実印や印鑑登録カードを自宅のたんすの中に入れていたが、保管には注意を払わず、本件土地の権利証は被告繁や優にその保管を委せており、被告繁や優の言うがままに実印などを渡していた。

(二) 被告繁は、被告東京テラゾーの経営を優に渡すまで、被告東京テラゾーの資金繰りや知人に貸与するため、本件土地、建物を担保として、訴外光信用金庫、訴外同和産株式会社、訴外金長吉、訴外徳田キヨなどの金融機関や町金融業者から借金していたが、優が、昭和四四年から、被告東京テラゾーを経営するようになってからも、被告東京テラゾーの資金繰りのため、訴外日和信用組合及び同組合を代理店として、訴外中小企業金融公庫にそれぞれ融資を申込んだが、右融資がなされるまでのつなぎ資金として、訴外安学佐及び訴外金民源から各一〇〇万円を借り受け、安学佐に対しては、昭和四四年一〇月二五日、本件建物につき、極度額金三〇〇万円とする根抵当権設定仮登記及び停止条件付賃借権設定仮登記を、金民源に対しては、同年一二月二日、極度額金一五〇万円とする根抵当権設定仮登記及び停止条件付賃借権設定仮登記を、被告繁及び被告正四の実印などを利用してそれぞれなした。その間、被告東京テラゾーは、同年一一月二四日に日和信用組合から、同月二五日に中小企業金融公庫から各金三〇〇万円の融資を受けることができ、本件土地、建物につき、同年一二月九日、中小企業金融公庫に対して債権額金三〇〇万円とする抵当権設定登記を、日和信用組合に対して極度額金三〇〇万円とする根抵当権設定登記及び条件付所有権移転仮登記をそれぞれなし、その際、日和信用組合に、本件土地、建物の権利証の保管を依頼し、安学佐の登記は同年一一月一八日に、金民源の登記は同年一二月一九日に、それぞれ返済して、抹済登記手続をなした。その後も被告東京テラゾーの資金繰りは苦しく、本件建物につき、昭和四五年四月一七日、訴外尾崎俊夫の申立により強制競売開始決定がなされ(昭和四七年一月二六日取下)、更に本件土地建物につき、昭和四九年二月七日、日和信用組合の申立により任意競売開始決定がなされた(昭和五〇年五月二〇日取下)こともあり、優は、昭和四五年七月二一日、安学佐から、約二五〇万円を借受け、右担保のため、同月二二日、安学佐に対し、日和信用組合から一時本件土地建物の権利証を持ち出して、被告繁及び被告正四の実印などを利用して、本件土地建物につき、債務者を被告繁名義として極度額金五〇〇万円とする根抵当権設定登記及び停止条件付賃借権仮登記をなしたが、その後、優は安学佐に対する借金の返済が過払になったとして、弁護士に依頼して、昭和四九年五月二日、本件土地建物についての安学佐の各登記の抹消登記手続を求める訴訟を提起し、右訴訟は、昭和五〇年一二月五日、被告東京テラゾーが安学佐に金五〇万円を支払って、和解が成立し、本件土地建物についての安学佐の各登記は、同月一六日、抹消された。ところで、優は、右訴訟が継続している間も、被告東京テラゾーの資金繰りのため、同年五月二八日、訴外大松物産株式会社から、金一〇〇万円を借受け、右担保のため、同月三〇日、大松物産に対し、被告繁及び被告正四の実印などを利用して、本件土地建物につき、極度額金三五〇万円とする根抵当権設定登記をなし、更に、同年四月二八日、訴外谷繁から、優名義で金一三〇万円を借受け、同年九月二日、被告正四の実印などを利用して、本件土地につき、極度額金三〇〇万円とする根抵当権設定仮登記をなした(いずれも昭和五一年二月二五日抹消)。

(三) 優は、昭和五〇年一一月二七日、渡部から、金三三五万円を借受けた際にも、被告繁及び被告正四の実印などを利用して、作成した登記申請委任状及び印鑑証明書を渡部に預け、その後、被告東京テラゾーの資金繰りのため、同年一二月二二日、訴外有限会社ムサシ建材工業から、被告繁及び被告正四の実印などを利用して、被告繁、被告正四及び優を連帯債務者として、金一五〇〇万円を借受け、同月二五日、本件土地建物につき、債権額金一五〇〇万円とす抵当権設定登記をなし、更に、昭和五一年三月三〇日、中小企業金融公庫から、被告東京テラゾーを借主として、金一四〇〇万円を借受け、同月三一日、本件土地建物につき、債権額金一五〇〇万円とする抵当権設定登記をなし、同年四月三〇日、訴外巣鴨信用金庫から、被告東京テラゾーを借主として、金六〇〇万円を借受け、同年五月一日、本件土地建物につき、極度額金六〇〇万円とする根抵当権設定登記をなした。また、優は、同年八月二一日、渡部の請求により、被告東京テラゾーを債務者とする金額金一三一九万円の抵当権設定金銭消費貸借契約書を作成した際、被告繁及び被告正四の実印を利用して、被告繁及び被告正四を担保提供者として押印し、本件土地建物に抵当権を設定する旨の記載をなしたが、その際、被告百々も優に同行し、被告百々が被告東京テラゾーの原告に対する債務につき遅滞して保証する旨約し、公正証書を作成することについての委任状に署名、押印して、渡部に交付した。

(四) その後、被告東京テラゾーが、昭和五一年一〇月末、倒産する際、優が、昭和五一年一〇月二一日ころ、渡部に相談し、被告東京テラゾーの公正証書を作成する委任状を渡したときに、被告百々からも印鑑登録証明書の交付を受け、同年八月に受取っていた委任状を利用して、同月二七日に作成した、原告と被告東京テラゾー及び優との間で作成した債務弁済契約公正証書において、被告百々も連帯保証人とし、被告百々が被告東京テラゾーの原告に対する債務を保証し、連帯して債務を履行することを諾約した旨の記載をなした。更に、渡部は優に対して、被告繁及び被告正四が被告東京テラゾーの原告に対する債務を連帯保証すること及び本件土地建物につき抵当権を設定することを求め、渡部を信用していた優は右要求を承諾し、同月二二日、被告繁及び被告正四の印鑑登録証明書の各二通交付を受けて、渡部に渡し、被告繁及び被告正四の実印を自宅から持ち出し、公正証書作成の委任状及び根抵当権設定仮登記申請の委任状に右各実印を押印し、渡部は、右各書類を利用して、同年一一月九日、被告繁及び被告正四が、被告東京テラゾーが原告に対して負っている前記債務弁済契約公正証書に基づく債務につき連帯保証人となり被告東京テラゾーと連帯して債務を履行することを約し、債務を弁済しないときは直ちに強制執行を受けても異議のないことを認諾した旨の保証契約公正証書すると共に、それ以前の同年一〇月二六日、本件土地建物につき、極度額金二〇〇〇万円とする根抵当権設定仮登記をなした。そして、渡部は、同月二八日ころ、優を呼び出して、会社の代表者印や優の印鑑登録証などと共に被告繁及び被告正四の実印、印鑑登録証、巣鴨信用金庫から返還を受けた本件土地建物の権利証を持ってこさせて、これらを預り、被告繁及び被告正四の印鑑登録証を利用して、同月三〇日、各印鑑登録証明証の交付を受け、被告繁及び被告正四の実印を押印した委任状を作成し、同年一一月一日、本件土地建物につき、極度額金二〇〇〇万円とする根抵当権設定登記をなした。

2  ところで原告は、

(一) 被告繁は本件建物を売却し、所有権を喪失した旨主張し、《証拠省略》によれば、本件建物は、昭和五一年一一月一一日、渡部に所有権移転登記手続されていることが認められ、原告の右主張は渡部に売却した旨の主張と解することができるが、渡部供述によれば、右登記は被告東京テラゾーの債権者が本件建物に所有権や移転登記をしないようにするためになしたもので、いずれは返さなければならない旨の供述があり、これからして、原告の右主張を認めることができない。

(二) また被告繁及び被告正四が、昭和五一年三月二〇日ころ、原告に対し、連帯保証の公正証書の作成し、根抵当権設定契約をなす旨合意した旨主張するが、渡部供述によれば、被告正四は原告主張の合意のときに立会わなかったことが認められ、これからすれば少くとも被告正四については原告の右主張は認めることができず、また被告繁については渡部供述中に右主張に符合する供述部分があるが、右主張を補強する証拠がなく、右主張を否定する繁供述及び優供述があり、しかも前記各証拠によれば、貸借の最初の段階ではなく、貸借の途中で担保提供者に確認することは通常考えられず、右供述部分だけでは原告の右主張を認めることができず、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。

3  また被告らは、優が被告繁及び被告正四の印鑑を利用して連帯保証の公正証書を作成したこと及び本件土地につき根抵当権を設定したことは無権限でなしたもので無効であり、被告百々の連帯保証の公正証書の作成は原告に預けておいた印鑑証明、委任状を濫用してなされたものである旨主張しているが、

(一) 被告繁及び被告正四に関する主張については、繁、優、正四及び百々各供述中に右主張に符合する供述部分があるが、前記1記載の各証拠によれば、

(1) 優が、昭和四四年から、被告東京テラゾーの経営を行うようになってから倒産に至るまで、資金繰りのため、ひんぱんに本件土地建物を担保として借金をしているが、右担保設定が、被告繁及び優の供述のように、いずれも被告繁及び被告正四に無断でなされたとは信じられないこと。特に、本件土地建物について安学佐の登記の抹消請求の裁判が継続している間も、本件土地建物を担保にして借金したり、被告繁が認める日和信用組合と中小企業金融公庫の抵当権設定登記がなされたときに、被告繁が認めていない金民源の根抵当権設定仮登記がなされており、金民源の右登記の存在は知っていたと考えられること。

(2) また、被告繁及び被告正四は優と本件建物に同居し、被告繁は、昭和四四年以後も、時折、会社にでており、本件土地建物について強制競売や任意競売の申立がなされ、右通知が、当然、被告繁及び被告正四になされており、被告東京テラゾーの経営状態が悪化し、資金繰りのため本件土地建物を担保にして借金していたことは、被告繁及び被告正四が認識していたと考えられること。

(3) 被告繁の安学佐に対する裁判も、優供述を総合判断すれば、優が被告繁に勝手にやったというよりも、安学佐に対する弁済が過払であったことが理由であるとしたと認めるのが相当であり、右訴訟も、専ら、優が弁護士に依頼して提訴したもので、被告は後で知らされたにすぎず、優が被告繁に無断で安学佐に対する登記をなしたとは考えられないこと

(4) 被告繁及び被告正四は、実印や印鑑登録証の保管に気を付けず、優の自由な使用を許していたと考えられること

(5) 被告正四の供述によれば、被告正四は本件土地の処分については被告繁及び優に任せていたと認められること

(6) 《証拠省略》によれば、被告繁及び被告正四が被告東京テラゾーの原告に対する債務を連帯保証したことを自認していたと認められること

以上からすると、被告ら主張に符合する証拠は信用することができず、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。

(二) 被告百々に関する主張については、百々供述中に右主張に符合する供述部分が存在するが、被告百々は、原告との関係が終った後であると供述する昭和五一年一〇月二二日、原告に対し、印鑑登録証明書を渡していることに照らして、百々供述は信用することができず、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。

4  他に前記1認定の事実を覆えすに足りる証拠はなく、右事実によれば、被告繁及び被告正四は優に対して被告東京テラゾーの資金繰りのため、本件土地建物を担保として借金することを含む包括的な代理権を付与していたと認めることが相当である。したがって、優が被告繁及び被告正四に代理してなした、被告東京テラゾーの原告に対する債務について連帯保証契約及びその公正証書の作成及び本件土地建物について根抵当権設定仮登記手続をしたことは有権代理行為として有効である。なお、本件土地建物につきなした根抵当権設定登記は、前記1認定の事実によれば、渡部が優から預った被告繁及び被告正四の実印並びに印鑑登録証を利用してなしたものであると認められるが、渡部優との、前記1認定の合意からして、右登記手続は有効であると認めることができる。

三  被告らは被告東京テラゾーの原告に対する、原告主張の貸金債務の存在を争い、不当利得返還請求権があると主張しているが、被告東京テラゾーの原告に対する貸金債務は金二五万円の限度で認めることができ、また被告ら主張の不当利得返還請求権は認められないことは、第一一六八事件で判断したとおりである。

四  したがって、被告ら主張の貸金債務及び連帯保証債務の不存在並びに公正証書の執行力の排除は右限度を超える部分については理由があるが、根抵当権設定(仮)登記の抹消請求は、被担保債権が存在する以上、理由がない。

(第五三六三号事件について)

一  請求原因第1、第4項は当事者間に争いがない。

二  前項の争いない事実に《証拠省略》によれば、第一一六八号事件第二項1の事実を認めることができ、右認定に反する右各供述は信用できず、また原告主張の貸金のうち、昭和五一年一〇月六日の貸金二五万円を除く貸金は認めることができず、被告本城主張の右貸金の弁済及び過払金の存在は認めることができないこと、したがって被告東京テラゾーは原告に大日本土木に対する債権金七三万八八六〇円を譲渡したことは認めることができるが、右債権譲渡は、被告本城主張のとおり、要素の錯誤で無効であることは、第一一六八号事件で判断したとおりである。

(第一〇四七二号事件について)

一  請求原因第1、第3、第4項はいずれも当事者間に争いがなく、同第2項は《証拠省略》により認めることができる。

二  第五二六三号事件で判断したとおり、原告は被告東京テラゾーから大日本土木の債権を譲り受けたが、右債権譲渡は要素の錯誤により無効である。

(結論)

以上によれば、原告の被告東京テラゾー及び被告本城に対する請求は理由がないので棄却し、被告東京テラゾー、被告繁、被告正四及び被告百々の各請求のうち、債務不存在確認及び請求異議については金二五万円を除く部分については理由があるので認容するが、その余の各請求については理由がないので棄却し、被告本城の請求は理由があるので認容することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小松峻)

〈以下省略〉

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